三島由紀夫「愛国心−官製のいやなことば」
『この言葉には官製のにほひがする。また、言葉としての由緒ややさしさがない。
どことなく押しつけがましい。反感を買うのももっともだと思われるものが、その
底に揺曵してゐる…愛国心の《愛》の字が私はきらひである。自分がのがれやうも
なく国の内部にゐて、国の一員であるにもかかはらず、その国といふものを向こう
側に対象に置いて、わざわざそれを愛するといふのが、わざとらしくてきらひである
…日本人の情緒的表現の最高のものは《恋》であって《愛》ではない。もしキリスト
教的な愛であるなら、その愛は無限定無条件でなければならない。従って、《人類愛》
というなら多少筋が通るが、《愛国心》というのは筋が通らない。なぜなら愛国心とは、
国境を以て閉ざされた愛だからである』
『この言葉には官製のにほひがする。また、言葉としての由緒ややさしさがない。
どことなく押しつけがましい。反感を買うのももっともだと思われるものが、その
底に揺曵してゐる…愛国心の《愛》の字が私はきらひである。自分がのがれやうも
なく国の内部にゐて、国の一員であるにもかかはらず、その国といふものを向こう
側に対象に置いて、わざわざそれを愛するといふのが、わざとらしくてきらひである
…日本人の情緒的表現の最高のものは《恋》であって《愛》ではない。もしキリスト
教的な愛であるなら、その愛は無限定無条件でなければならない。従って、《人類愛》
というなら多少筋が通るが、《愛国心》というのは筋が通らない。なぜなら愛国心とは、
国境を以て閉ざされた愛だからである』